§3 男は忙しいから家事できない?? −男性の家事・育児を考える−
男の井戸端会議〈座談会〉
 家事について、育児について −男のタテマエ・男のホンネ−

 アンケートの結果の集計が進む中、アンケート回答者の中から希望者を募って座談会を行った。もし、誰も参加者がいなかったら、と心配していたが、杞憂であった。晩秋の土曜日、集まってきたお父さんたち。さて、アンケートの数字だけではわからない男の本音を話してもらうとしよう。

〈参加者〉※仮名
 山田さん 39歳。歯科医。専業主婦の妻と、小学生の女の子2人。
 鈴木さん 46歳。建設会社勤務。専業主婦の妻と、中学生と高校生の男の子2人。
 佐藤さん 35歳。ソフトウェア関連。専業主婦の妻と、5歳と3歳の男の子。
 吉岡さん 47歳。大学教員。教員の妻と、長女。
〈コーディネーター〉
 田中克幸さん 34歳。中学教諭。教員の妻と8歳の男の子、6歳の女の子。
田中◆
全く初対面同士の座談会ですので、まず私の自己紹介から始めましょう。私は共稼ぎをしています。夫婦2人とも学校の教員です。子供は2人の、いわゆる核家族です。私自身は、家事や育児は男の権利でもあるという考えです。男性が真剣に家族の一員として取り組んでいかないと、男は使い捨てられるんじゃないかとも考えます。
 今日来られた皆さんには、ぜひ、男性の家事や育児について率直なご意見をお聞きしようと思います。皆さんの参加された動機を、自己紹介を含めてお願いします。

若い女性が、いいスタッフとして育たない
結婚したらしんどくて続かないんですね

山田◆
僕は歯医者です。歯科医院は女性の職場なんですが、なかなか若い女性がいいスタッフとして育たない。というのは朝9時から夜7時半までという長い勤務だから、結婚したらしんどくて続かないんですね。こういう悩みを持っている職場はたくさんあるんじゃないかな。
 僕自身は申し訳ないけど、家事はほとんどやっていませんが、男性も家事に参加するという意識を持たないといけない時代になったのではないかと思いまして、やって来ました。退職金の問題もあるので、あまり長く勤められても困るんですが、10〜15年くらいは勤務して育ってほしい。フレックスタイムができるほど多人数のスタッフには来てもらえないから悩みますね。人が育たない、育てるだけのお給料もなかなか現状としてあげられない。家事などの問題より以前に社会的な問題が大きく影響している気もします。
鈴木◆
私は建設会社勤務です。私、料理するのが好きなんですけど、「あなたみたいに、男性でも料理する人が増えたから、いろんな方が来られるんじゃない、行ってみたら」ということで女房から勧められて来ました。
 私のところは男の子2人ですが、子供達にも小さいころから料理をおぼえさせています。会社の催しとかキャンプなどに行ったり、身内が集まったりすると、料理のできる男は重宝されます。教えるのも楽しいです。

男性は外で稼ぎ、女性は子供を育てて家を
守るというのが本来の人間の姿じゃないか

佐藤◆
私はソフトウェア関係です。よく最近、男女の家事の分担とか女性の社会進出とか男女雇用均等法とか叫ばれていますが、もう一度原点に返ってじっくり考えるべきじゃないかと思ってやってきました。
 もともと女性の骨格は子供を生むのに適している。いっぽう男性は狩りをするのに適した体である。男性は外で稼ぎ、女性は子供を育てて家を守るというのが本来の人間の姿じゃないか、と思えるんです。
 昔の男の仕事はどちらかというと肉体労働的なものが中心でした。今は、家事は電化製品など便利なものがあるし、仕事も知的生産のようなものが増えてきたので、女性も体力的に社会進出できるようになった。
 でも、私の勤め先でも、女性が結婚して子供ができると、1年間休みをとって、そのあと、結局仕事をやめてしまう。そうすると会社側としても、計画が立たなくなるんですよ。その辺を考えないと、女性の社会進出は簡単にいかなくなるんじゃないかと思います。
吉岡◆
私は大学の教員です。家事に対する考え方は、共働きの家庭の主婦か、専業主婦か、それぞれの立場によってかなり違うと思うんです。最終的には男も女も幸せにならないといけないのですが、これまでの社会では、女性がかなり抑圧されているのは間違いない。どの辺が一番いいのかと思いますが、基準がない。家事について本音で語るということで、皆さんが、どういう考えを持っておられるか聞きたくて参加しました。

わが家の家事・育児

田中◆
家事・育児などの家庭の問題について、みなさん自身の家庭の中の家事とのかかわり方も含めてどういう風に思われるか、ご意見をどうぞ。
鈴木◆
私の会社では、就業時間は5時半が定時です。共稼ぎの女性は定時で帰りますが、男はどうしても残業することになるから、家事をする機会もないですね。共稼ぎの方は女性のほうが家事をせざるを得ないことになります。
 うちの妻は専業主婦ですが、手を抜くことをおぼえたみたい。共稼ぎと同じような感覚で、ある一定の短時間にパーッと集中して家事をしてる。私が家にいる時に。昼はテレビ見たり本読んだりしてるみたいですよ。
佐藤◆
うちは、家事はほとんど専業主婦の嫁さんがやっています。得手不得手があって、食事をつくるのは、自分には無理だし、あまり興味がない。唯一、嫁さんより自分のほうがすぐれている家事は片付けや掃除です。嫁さんが得意じゃないんで、イライラしちゃうから自分で土日に掃除します。
 何か考えがあってやるんじゃなくて、できる人、効果の高い人がやればいいんじゃないか。でも、基本は「家事は専業主婦の仕事」です。「家事ができないんだったら、外に出るな」と言っています。僕は仕事、家事は妻という分担です。
吉岡◆
共働きのときはフィフティ・フィフティ。専業主婦であれば、家事のかなりの部分はしてもらっていいんじゃないかと思いますが、本当はどのくらい男性がはいるべきなのか。わかんないんですよね。結婚するまでの家庭環境とかで相当学習されてますから。
山田◆
私はほとんど家事はしません。できるかできないかの問題なんです。5時や6時で仕事やめてたら、病院つぶれちゃいますから、非現実的なんですよね。
田中◆
佐藤さんのお話の中で、人には得手不得手があるということなのですが、鈴木さんの息子さん達はだんだん料理が得意になっているんですね。私自身も小さいころから両親に料理を意図的にさせられてました。仕方なく作り始めたのが、いつのまにかきょうだい3人料理好きになりました。
 男性と女性は肉体的にも生理的にも違う。でも、個人差もある。男は昔から狩りをしている。でも、ずーっと昔、狩りの獲物は皆でさばいた。そもそも人間はどういう生き物だと考えるかが重要なのでしょうか。女性と男性には肉体的な違いがあって、妊娠出産授乳について男性にはできませんが、子供とのかかわりについてはどのように考えられていますか。
吉岡◆
男と女の役割が、どんな点で違うのか、違わないのかは、はっきり認識しておくべきだと思います。男が狩りに行くと言い切っていいかどうかというと、私にはわからない。メスが狩りをしてオスが卵を温める動物もあります。男には子供は生めませんが、家事や育児に関しては、男女どちらが合っているのか決められないような気がします。
 個人差を入れて話すのか、平均値でいくのかによっても違いが出るでしょう。どちらかというと、たぶん女性ということになるのでしょうが、だからといって「女性がしなくてはいけない」というような強制力は何もないと思うんですよ。

共働き家庭と専業主婦家庭

田中◆
それぞれの考え方がわかってきたと思うのですが、お互い質問はありませんか。皆さんの育った環境などはどうですか。
佐藤◆
今の自分の環境とほぼ同じで、専業主婦の母と働く父。そんな環境が自分にとって良かったと思っているから、今、そうしているんです。
鈴木◆
私は、親父が小5の時死にまして。母が働いて食べさせてくれました。いろんな家事を子供がしなくちゃならないという環境でしたね。
山田◆
うちは共働き。でもそれがいいか悪いかなんて言えない。子供心に淋しいなというのはあったけど、そうしないと食べていけない。べつにとやかく言うことはできない。
吉岡◆
昔の家庭というか、父は働き、母は家に。父は家では殿様みたいにしてました。
田中◆
ちなみにうちは祖父母の時代から共稼ぎで、専業主婦というのがいなかったんです。「子供は3歳まで保育所などに預けるべきではない」という考え方がありますが、私はそうは思わないんですよ。寂しかったという思い出はありますけど、今自分が共働きをして、子供は保育園にも行っていましたが、子供にとって悪いこととは全然思わないですね。ある意味ではしっかりと子供にも仕事をさせて自立させていっているなあ、と感じています。
佐藤◆
私は「3歳までは家庭で」という考えです。アンケートでは多数派になりますが。
吉岡◆
私は、専業主婦がいる場合といない場合、どちらがいいかわかりませんね。「女性」がいるべきかどうかも、なんとも言えませんね。
田中◆
専業主婦って夫から見てどんなものですか。専業主婦と共働きでは条件は違いますか。私にはよくわからないんです。
佐藤◆
私にとっては、専業主婦がいるのは、「安心」ですね。
鈴木◆
ですね。いつ誰が帰ってきても家庭に人がいる。安心ですね。核家族だから。二世帯とか大家族なら専業主婦がいなくても問題ないんでしょうが。何か用があって私や子供達が電話しても誰もいないときは「安心じゃない」って感じます。
吉岡◆
子供が小さいうちは、社会整備ができていない状況では、ある時間いわゆる鍵っ子になってしまいますしね。
鈴木◆
共稼ぎの方にお聞きしたいんですが、田中さんは仕事から何時に帰れますか。
田中◆
つれあいは6時。私は、今は勤務の関係で少し遅いのですが、本来は6時半です。
佐藤◆
お子さんが学校から帰ってから、6時まではどうしてます? 例えばその時間、高校生くらいになったら、悪い友達と会ってた、とか不安じゃないですか。
田中◆
小学校の低学年くらいまでは、5時までは家に誰もいない子が勉強したり遊んだりする児童館にいます。不安じゃないですよ。ずーっとそうだから。私自身、母が働いていたために人に迷惑をかけるような人間になったという気もしないし、高校の時タムロしてどうこう、ということもないんですよね。そのあたりは全く心配してない。
 私の場合、小さいころは、いつも母の帰りを待ってました。通勤のバイクの音が聞こえると、急に甘えた子になっていたそうです。でも、働いてる母ってのも好きですね。父とも対等だし。私には専業主婦の母の方が良かったかどうかということはわからないですね。
山田◆
教員は結構共働きが多いですね。職場での労働条件が整備されていますから。そういう家庭では男性でも家事をやってる。でも、僕の場合したくてもできない。自分の時間さえない。8時過ぎか、もっと遅くなるから、風呂入って子供とちょっと遊んで、それで終わりですね。社会のシステムを変えないで家事分担の話をしてもナンセンスなのです。
田中◆
専業主婦が良いか悪いかという簡単な見方ではなくて、専業主婦がいるという体制より他に選べないということですね。例えば、父も母も夜帰ってこないとか、両親とも出張で今日は子供だけとかいう状況を考えてみると、それは好ましくない、やはり、どちらかが家にいる必要がある。だから女は家庭で、男が仕事というようなことになるんですよね。
鈴木◆
会社に共働きはいますけど、生活のためというのが多いです。若くして家を買ったとか。いろいろ遊びたいとか。夫の給料だけでは無理だということで共働きしている。

ああ、自分は
近所付き合いをしてなかったんだなぁ

鈴木◆
あの、近所づきあいはどうされてます?
田中◆
隣組の組長がまわってきたことがありました。ある時近くで不幸があって、通夜と葬式の準備をするのに、その日のうちに全部の家にお知らせを回さないといけなくなって。でも、どこからどこまでの家に知らせればいいのかわからないんですよ。ああ、自分は近所付き合いをしてなかったんだなぁ、と思いました。そこで思ったのは、男ってのは近所のことも、隣の子供の名前も知らない。しかし、地域の人達は、しっかり自分の子供を見てくれてる。地域のかかわりを大事にしないといけないな、と思いました。皆さんはどうですか、地域とのかかわりは。
佐藤◆
井戸端会議的な話は女房から聞いてます。
鈴木◆
みんな女房まかせです。アンケートに出てるような項目は協力してもいいなと思うけど、近所づきあいはむずかしい。男がはいって行けない。
田中◆
女性がするのが前提ですか。
鈴木◆
町内会長などは男性の方が担当しますけど、一般的には町内の仕事に男性が出ていくときはないですね。出ていきたいという意志もありませんが(笑)。
吉岡◆
共働きだと近所の人達とは接触が少ない。でも、土日に行う町内の会にはほとんど出るようにしてますから、井戸端会議は必要ないと思います。

専業主婦の方は何を聞いても
ほとんどの方は「主人に聞いてみないと」

山田◆
さっき、働くお母さんがお父さんと対等だったというお話がありましたが、専業主婦だからってへりくだっているわけではないですよ。女性は。
鈴木◆
でも、仕事で会う共稼ぎの方の奥さんの発言ってのは強いですよ。共稼ぎの女性の家庭は、何もかも奥さんが決める。で、専業主婦の方は何を聞いても「いえ、主人に聞いてみないとわかりません」、ほとんどの方がそういう返事ですね。
山田◆
僕は、子供が小学3年生と1年生なので、まだ妻には家にいて欲しいけど、小学校を卒業するころには、何か彼女が生き生きとできるような職業でも、趣味でも見つけて欲しいな、と思います。子供というのはいつか旅立っていく。その時にも生き甲斐のもてる人生を歩んでほしい。人にもまれて成長するとか。せっかく生まれてきたのだから。
吉岡◆
山田さんと一致しますが、比較すると共働きの奥さんの方が、外でもまれますからね。共働きの人に比べて専業主婦の場合、社会との接触がかなり少ない。
鈴木◆
決断力も鈍りますね。
佐藤◆
人それぞれということに尽きるのですが、自分のオフクロなんか見てると、ずっと専業主婦で、パートなんかしたことない。で、今は悠々自適で、親父もまだ元気にしてて、幸せそうだな、と思います。もし手に職を付けて何か仕事をしてたら、オフクロは、果して幸せだったのかな、と考えると疑問ですね。
田中◆
私は、つれあいと収入が同じです。職業も一緒で、対等で、ケンカも多い(笑)。勝手に家の発注をしたり、あの業者に決めたとか、今度生命保険を解約してどの保険に変えたとか。決断力もある。私、世帯主を取られたんですよ(笑)。

でも、家事は、要求されたから
始めたというのが事実です

鈴木◆
家事の負担の要求もありますか。
田中◆
ええ。私の方が料理が得意だから料理をしています。
鈴木◆
専業主婦のいる家庭だと、夫への家事分担の要求ってのはやっぱり少ないでしょうね。佐藤さんは奥さんから家事をすることを要求されることはあります?
佐藤◆
ないですが、小言はよく言われます。自分、朝に弱いんですよ。夜遅いのは仕方ないとして、朝は、ちょっと早く起きれば布団を上げることぐらいできるんですが、ほとんどやらないんです。ま、土日くらいで。すると、平日も「布団くらい上げて」と言われる。
田中◆
共働きの場合、夫婦のどっちかに家事の負担が偏ったら、問題が出ますね。偏った負担を受け持つ方が死ぬんじゃないかと思う。
吉岡◆
家事をどう評価するかも問題ですね。普通、男性の家事に対する評価は小さいのですが、実際、家事労働をやってみると、これは大変な労働ですよ。
鈴木◆
専業主婦の仕事に給料を出すとしたら、ということについては以前何かに出てましたよね、月に10何万かでしたか。低いですね。
山田◆
24時間ですからねぇ。
吉岡◆
掃除洗濯はね、うちではやっぱりフィフティフィフティですけど、あいてるほうがやることになります。通勤時間が短い家内の方が分担が大きいことは確かです。
田中◆
私もしなくていいなら、家事をしないかもしれない、という面もあります。家事は好きですよ。でも、実際には、要求されたから始めたというのが事実です。うちのつれあいが「家事は私がするから、あなたはあっち行ってて」というような感じだったら、私はしなかったと思います。
鈴木◆
うちでは「あなたも家事をしてよ」と言われるのはしょっちゅうですが、山田さん、考えられます? もし「掃除してくれ」って言われたら。
山田◆
言われたことないんですが、ガーンと言われたら、せざるを得ない(笑)。
田中◆
ガーンといわれたら、朝ご飯つくりますか?(笑) 仕事で遅くなるなら、夕方の家事は無理でも、朝なら、やろうと思えばできますよね。さきほど言われた布団の上げ下ろしなんか、いつでもできそうな気がするし。そのあたりどうですか。
佐藤◆
やんなくちゃいかんなと思うんだけど、できない。土日しかやらない。
鈴木◆
専業主婦の家庭でも、何かしようかなっと思ってますがね、実際にはしない。
田中◆
やろうと思えばできるのに実際にはしないというのはどういうことなんでしょうか。
山田◆
女性が働いていてきつそうだなーと思ったら、自然とやるんでしょうが、女性が楽してるなと思ったら、「これくらいしとけよ」ということになるんですよ。
田中◆
奥さんが一生懸命頑張っておられて、「あなたも手伝って」と言われたら手伝うけど、自分から「手伝おうか」とは言えないということですか?
佐藤◆
専業主婦って、僕は外で仕事をして、妻は家で家事をするという仕事の分担をしたってことでしょう? 忙しそうだったら、ちょっと手伝おうということはありますが。
田中◆
それでは、仕事の分担はしっかり整理されていて、安定した状態だから、今さら家事をしないとか、するとか。そういう感じじゃない、ということですね。

もっと女性はしっかりしないと

山田◆
やっぱり、もっと女性はしっかりしないと今までと同じように「女性は低次元」というふうに見られる。例えば、言いたいことだけ言って、権利ばかり主張して、義務のほうは果していないと思える女性は結構多いですよね。
 ビジョン自体は確かに良くても、現実に則してない。現実に則して一歩ずつ進めるような共感が得られるビジョンを持って、女性も、男性も含めてですが、社会を作っていくべきなんじゃないかな。
田中◆
女性がもっとしっかりしないといけない、というお話があったのですが、仕事などをもっとしっかりやろうと思ってもやれない女性もいると思うんです。例えば奥さんが、歯医者の資格とって「私が歯科医院を切り盛りするから、あなた家にいて下さい」と言ったら、あるいは、夜、会合などに出て行くようになった場合とか、どうされますか。
山田◆
女性が男性をその気にさせて納得させるか、納得するような男性と結婚するかでしょうね。二人の問題だと思います。が、実際妻がそういうことを始めたら、「ぼくの仕事に支障がない程度にしてね」と言います。やってほしいな、というビジョンはあるけど、ぼくにプレッシャーとか来たらこわい。社会のシステムを変えないといけないでしょうね。

男が家事をするとき
世間体って無視できないと思う

田中◆
家事や育児の話に戻しますが、皆さん、多かれ少なかれ家事をされてますよね。で、いわゆる家事にかかわってみて、やって良かったとか、もっとやりたいなとかありますか。
佐藤◆
家事っていう家の中の運営は、やっぱり家の中にいる人間が果たさなくちゃいけない、と思います。良かった悪かったじゃなく。
吉岡◆
私の場合、忙しいときには、かなりおろそかになりますが、やりたい、やりたくないはあまり関係なく、やらざるを得ない。どれだけやれるか、とか能力の問題ですよね。
鈴木◆
店に買い物に行ったり、洗濯物をクリーニングに出したりはしたくない。家事を他人に見られるっていやですね。男は、家事は家の中だけでするものだと思いますけど。
吉岡◆
それはある。世間体って無視できないと思う。よく聞かれますよ。「何であなたがやってるのか」とかいう見方で見られる。八百屋からは単身赴任者に見られてます。
田中◆
私は弁当は自分で作っているんですよ。職場変わって弁当を持って行くと必ず「愛妻弁当でいいね」と言われます。「僕が作ったんです」と言うと、「何で奥さんが作らんと?」「病気?」「喧嘩?」と言われる。3歳児検診でも、女性ばかり。保健婦さんが「お父さんに聞いてわかるかどうか」なんて言うんですよ。「バカにするな」って思いますよ(笑)。
 慣れるまでは恥ずかしいですよ。でも、田中さんは変わってるというのが定着してくると、近所の奥さん方が寄って来て「今日は何にすると?」なんてよく聞かれます。「サバを買ったので味噌煮にしようかと思ってる」と言うと「うちもそうしようかな」とかね。壁越えたんです。
鈴木◆
私は、まだ壁は越えてないですね。
吉岡◆
私は、壁を越えてます。子供の参観日とかね、女性ばっかりですよ、特に奥さんばっかり。でも、そのうち慣れてきますよ。
鈴木◆
今回の座談会もひとつの壁ですよね。何にもわからんのに来たんですから。
田中◆
今まで出てきた意見をちょっとまとめてみます。まず、今日の話でわかったのは、男性側から見て、共働きであるか、配偶者が専業主婦であるかで状況は大きく変わってくるということですね。一般論にしては話しにくいというのはある。
 それと、ちょっと聞いてて矛盾を感じる部分もありました。10年20年勤めてスキルをつけて欲しい、女性にしっかりして欲しい。だけど、ウチの妻は自分の仕事に影響のない範囲で、と。どこの家でもそういう風になってしまったら、街歩いてる女性はいなくなるんじゃないかなという気もしますよね。
山田◆
矛盾ありますよね。本音と建前ですね。否定はしません。
吉岡◆
社会に出ないとしっかりはしてこない。家庭の中にいるだけではなく、いろんなサークルだとか勉強会もありますから、積極的にはいって行って。女性がしっかりするためには社会に参加する必要がある。
鈴木◆
で、家事の負担も(夫に)まわって来る(笑)。
吉岡◆
そうです(笑)。

もし、奥さんが先立たれた場合、
家事とか、食事とかどうされます?

田中◆
それと、もう一点はですね、これから超高齢化社会が近づいて、団塊の人々があと何年かして高齢者になったときのことを考えたいんです。もし、奥さんに先立たれた場合、どうやって家事とか、食事とかするのか、どう考えられてます? 男はみんな自分が先に亡くなると思ってるんですよ。でも、そうじゃない場合のことを考えたら。
佐藤◆
強制はできないから、無理だったら施設に入るしかないですが、子供に見てもらうことを期待します。僕は、自分の親に対してはきちんと面倒を見ようと考えています。それを見ていれば子供だって理解してくれるんじゃないかと思います。
田中◆
お子さんが、自分の育った中で認識ができていくだろうから?ですね。
吉岡◆
私は男も基礎的な家事はできないといけないと思うんですよ。単身赴任した私の知り合いは、みそ汁ひとつ作るにも、味噌買って、また具を買いに行く。ごはんの炊き方もわからない。そういう人はけっこういると思います。自分のことは最低限できないとね。
山田◆
僕は、体が不自由になりさえしなければ、ひととおりのことはできるつもりです。
鈴木◆
私は、一応全部できるつもり。老後に対して不安はないです。ただ、教育の段階で、老後は兄弟どっちかが見ろと教えています。そりゃどうなるかはわからんですよ。ですが、義務づけのように育ててます。今は不安はないですよ。信じて育てなきゃいけませんよ。
吉岡◆
私は、子供は、出ていったら終わり。自分のことは、老後も自分でみる考えです。骨焼いてもらうくらいはしてもらいたいですけど、あとは、ほとんどあきらめてます。
田中◆
私は、子供がどこへ行ってもいいように準備しています。老後のお金なんかも今から考えて。自分が、親に縛られるのがいやだったんですね。東京の大学に行って、何で今福岡に住んでるのかというと、親が福岡にいるからです。夢も見ましたよ。東京の企業でバリバリやってみたいなってね。でも親のことがあったから出来なかった。
 子供に対しては、行きたいのなら、どこにでも行けと思ってます。ただ、一緒に住みたいと言うのなら、拒否はしませんけどね。基本的にはいなくなるもんだと考えてます。
鈴木◆
いわゆる「老後」のことは?
田中◆
老後は、お互い元気なうちは一緒に暮らして、だめな場合は安心できるように、社会福祉、社会保障制度を、自分の老後の来るまでは整備して欲しいなというのはあります。
鈴木◆
老後は子供達とは別だから、男性も家事はおぼえとかないかんということですね。
田中◆
子供達と一緒であっても、そうだと思うんですね。

男性の本音を、しっかり女性に伝えよう

田中◆
今日の座談会は、男性の本音を女性にうったえるものなんですよ。
鈴木◆
そうなんですか(笑)。
田中◆
この座談会は、女性が活用するんですから。男性が今、この世の中でどういうところがキツいのかを、ちゃんと伝えておかないと、女性も言いたいことばっかり言うと思うんですよ。「男は、男は、男は」って。でも、男の考えをしっかり伝えることで、女性も男性のことを考えながら取り組んでいけると思うんです。ぜひ世の女の方に言いたいことを話して下さい。理屈とか理論ではわかるけども、ちょっと、言いたいこと、あるでしょ。
 僕だってあるんですよ。例えば、うちのつれあいは、男女平等って家事も半々でフィフティ・フィフティと言うんですが、教員の世界でも職場ではやっぱり男性社会です。何か重大な事件が起こったら、男性が矢面に立ったり対応しなくてはならない。女性なら「ちょっと子供を迎えに行きますので」と会議を中座できる。が、男性は、そうはいかない。一方は男性社会で家庭じゃ平等というんじゃ、きついなあってところがあるんですね。
鈴木◆
さっき言いましたが,勤務時間の関係です。やはり今の社会、女性は定時で帰れるようになってますものね。男性が定時で帰るのは、学校とか役所の方はともかく、一般企業では、まず無理ですね。それと、家事をする男に対する世間体というのがありますね。それを無視して女房のほうが男性に家事分担を押しつけるというのはどうかと思いますね。
佐藤◆
最初に言ったように、最近女性が自己主張しているという認識を持っているんです。男女雇用機会均等法も施行されて数年たって実績も出てきてると思うんですが、私の目から見ると、主張する前にやるべきことを、ちゃんとやってる女性は少数派ですよ。
田中◆
ちゃんとやってるってのは?
佐藤◆
男性と対等に残業もし、接待もちゃんとつきあうくらいの迫力をもって仕事してる女性もいますが、ほとんどの女性は、平等のいいところだけ利用して自分に都合の悪いところでは女性を強調する。例えば、仕事の上での男女平等を主張するのは、それと引き換えに子供を生むことをあきらめるくらいの覚悟があって言っているのか。子供を生むってのはそれだけのハンディを背負ってるってことですよね。
 制度のほうの問題もあるのかも知れないけど、うちみたいな、入ってからいろんな技術を身につけていくような会社の場合、男性が一番仕事にアブラの乗ってくる時期に女性は子供を生むわけでしょう? 一人子供を生めば仕事に一年とかのブランクができてしまう。そういう事実は、本人にはどうしようもないことだと認めて、その上で自己主張してほしいなーという感じ。
吉岡◆
女性にいいたいことですか。一般論ですけどね。今言ってる女性の主張していることというのは相当ワガママだという感じがする。「責任」というものを考慮に入れた主張かというと、かなり疑問を感じる。そのワガママというのが本来の生理学的なところからくるのか、専業主婦だとか、社会が作った性格であるのかはわかりません。両方関係してると思うんですけど。結論からいうと女性の方もかなり言いたいこと言ってるなと。
山田◆
吉岡さんと大体同じですが。僕自身もですね、本音と建前、ビジョンと現実とは違う。ビジョンを持ちながら、一歩一歩変えていくのが現実に則したやり方かな、と思う。
田中◆
それぞれの家庭や男女の関係において、役割分担にしろ何にしろ、それがお互いの納得の上のことなのか、それとも本当の納得なしにそういう風になってしまっているのかというのは、もう一回見ていく必要があると思います。
 労働時間の問題も含めて、外国なんかと比べると、非常に残業時間なんかも多いわけでしょう。そのあたりも考えるべきですね。男の人間としての生活というか、人生は一回しかないのに、過労死が国際語になってしまっていることなどについて、男としても考えないといけない。意識の問題と、実態の問題と、制度の問題を総合的に考えないといけないんじゃないでしょうか。

男女とも幸福にならないといけない
どういうやり方が一番いいのか

吉岡◆
家事を含んだ男女の関係という中で、最終的には男女どちらも幸福にならないといけない。どういうやり方が一番いいのか、今後も考えていかなくてはならない。これまでの社会はやっぱり男社会ですが、それを継続していくことが本当にいいのかどうかは私にもわからない。
 男と女のどこに本来の違いがあるのかをよく煮詰めてから、役割分担というのを考えていかないと間違ってしまうと思います。現実にはひとつずつ、その場その場で直して行くことが大切でしょう。女性が外に出て行って働きたいという意志があれば、やはり出すべきだと思うんですね。幸せを追求するなら。
田中◆
最後の質問ですが、もう一度生まれ変われるなら、男性に生まれたいか女性に生まれたいかということをお聞きします。
山田◆
もちろん男性希望です。
鈴木◆
男性です。
佐藤◆
女性をやってみたいな。男はわかったから(笑)。
吉岡◆
私はどちらでもいい(笑)。
田中◆
佐藤さんは次は女性に生まれてもらって、どうだったかというのをぜひお聞きしたいですね。その上で、3回目にどっちにするか決めてもらいましょう。状況も条件も違うから、まとまりはしませんが、はじめて会う人同士にしては話がはずみました。今日はどうもありがとうございました。
(1995年11月18日、於アミカス)


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