男性はとかく、知識や理論で議論するように訓練されて育ちます。しかし、理論的に見える考えも、多くは自分の気持ちや体験に根付いているものです。同性愛者に関する講演をすると、男性から「倫理に反する」とか「種の保存はどうなっているんだ」などの「理論的」な反発を受けることがたまにあります。「気持ちが悪い」などの気持ちに根ざしていることに気づかない限り、それは本当に虚しい議論となってしまうのです。
そもそも、自分とは違うと感じる人を理解するには、その人の人生を良く知ることが大切です。そこには思っている以上に、多くの共通点があります。そして、お互いの体験や気持ちを語り合うことから、すべてが始まるのです。
同性愛者への理解を主目的とはしていますが、個人的な体験に耳を傾けること、そして、自分の体験を語る場にしたいと考えています。
今回このテーマで分科会を持った動機ですが、一つには、同性愛者の問題を広く異性愛者の男性にも理解して欲しいということがあります。いわゆる「男らしさ」というものに、男性が固執してしまう原因の一つに、ゲイのように嘲笑されたくない、というものがあります。厳密に言えば、ゲイではなくて、トランスジェンダーに対する抑圧なのですが、多くの人はゲイもトランスジェンダーもひっくるめて、「おかま」として蔑んでいるからです。
そしてもう一つには、同性愛者について講演したときに、決まって反発があるのが男性なのです。しかも、「倫理に反する」とか「種の保存はどうなっているんだ」といった、妙に「理論的」なものです。「気持ちが悪い」などの気持ちに根ざしていることは、一目瞭然なのですが、なぜか、「理論的」に反発してくるのです。おそらく、男性が知識や理論で議論するように訓練され、気持ちをないがしろにされてきているからでしょう。
そこで、異性愛者の男性に、同性愛者がどういう思いをして生きてきたかを聞いてもらうことで、理論的にではなく、一人の人間を受け入れるという形で理解して欲しいと思ったのです。
参加者は、ヘテロセクシャルの男性、女性、同性愛者の男性というように、様々な人がいました。
前半は、私個人の同性愛者としての半生を語って、そのことについての質問や感想を参加者に言ってもらいました。すぐにジェンダー論などの理論的な話に流れがちで、それをもっと個人的な考えや気持ちに戻すのに苦労しました。男性女性に限らず、自分の率直な気持ちを語るのが難しい人もいるようです。
後半は、テーマごとに小グループに分かれて、自分の体験や気持ちを語り合うということをやりました。「初恋」、「同性に近づいて中傷された体験」などのテーマで分かれました。一定の時間を決めて、話を遮られることなく、順番に自分の話をするというルールのもとに、行いました。その場で話したことは秘密を守るというのも大事なルールです。これは、再評価カウンセリングの会でやっているサポートグループのやり方を使ったものです。
私としては「ゲイって気持ち悪い」というものも含めて、とにかく率直な気持ちを出してもらいたかったのですが、参加していたほかの同性愛者からの反発があり、そういう素直な発言がなくなってしまったことがありました。多様な参加者ゆえの難しさを感じました。おそらく、まずは同性愛者、異性愛者を分けて、率直な気持ちを語り合ってもらい、その後に、一緒にやるというのが良かったのでしょう。
参加者の人は非常に熱心に話に耳を傾けてくれて、「同性愛者を身近に感じられた」という感想もあり、嬉しいものでした。短い時間でしたが、同性愛者を理解する一つのきっかけとなればと思っています。安全に自分の話をする場がなかなかないのが現状です。同性愛者についての話をする場を設定してくれるなら、ぜひ連絡して下さい。
同性愛者の男性。同性愛者の親をサポートするグループ(PSG)の副代表。再評価カウンセリングの会の講師でもあり、精神障害者にピアカウンセリングを教えたり、子供の訪問相談などをしている。
(連絡先 FAX:03-3818-3191 E-mail:toshim@d1.dion.ne.jp)