§2 男は忙しいから家事できない?? −男性の家事・育児を考える−
男性座談会
 いまどきの男たちが語る、家事・育児

アンケート調査と並行して、回答者から参加希望を募り、男性による座談会を行いました。それぞれの生活、男性の家事・育児をめぐって感じることなどを語っていただきました。

〈参加者〉
 井口 耕二 さん(40代)  宇川  弘 さん(40代)
 東  量平 さん(30代)  上田 大輔 さん(20代)
 箕輪  裕 さん(40代)
               収録:2003年2月23日

井口(司会)
 まずは自己紹介ということでざっと話をしていただこうと思います。
 まずは私自身ですが、4歳と6歳の男の子がいまして、けっこう元気で暴れてくれるんでよく痛い思いをしています。
 もともとは、けっこう日本的な感じの会社に勤めていました。女性は結婚したら「退職」が当たり前、結婚退職でない女性は採らない、という会社だったもので、グループ全体で1万人ぐらい社員がいる中で、総合職の女性は一人入っただけ、というところです。
 子どもが生まれたときに、嫁さんも仕事をしているもんで、どうしよう、どうしよう、と言ってるうちに、私が仕事を辞めて自営になった方がどうも一番良さそうだ、ということで会社を辞めて自宅で仕事をしています。
 今日は男性の座談会で、ここに女性が座っていると言いたい事も出ないだろう、ということで、私が司会をやることになりました。よろしくお願いします。
箕輪
 私も会社員で、上が小学校4年生、下が4つ、ちょっと離れています。女房とは職場で知り合って結婚したんですけれども、当時はやはり女性は暗黙の了解で辞めるというのがありました。でも女房も仕事が好きでやってるので、できれば二人とも辞めなくて済むようにと、その暗黙の了解と戦ったような記憶があります。
 日本の職場って、そんなに勤労の監督をうまくやってなくて仕事のボリュームは大きいし、サービス残業が常態化していて、どうしても長時間になる。共働きなのでどちらか帰った方が家事をやらないとどうしようもない、というのが発端で自分も家事をやってる、というのが実態です。
 隙があれば当然二人ともサボりたいんですけども、どちらも楽しい週末を過ごしたいんで、手が空いてる方が、空いてる時間に家事をする、という状態ですね。今も共稼ぎで一応やってます。
宇川
 私は霞ヶ関で働いています。公務員です。妻は、某航空会社の子会社に出向しておりまして、子どもは上が受験で一浪中、下が中2、両方とも女の子です。もう結婚して、相当たっております。年齢は50直前です。
 最初から共稼ぎで、給料が安いってことがそもそもですけど。妻は海外と往復する仕事でしたが、結婚を機に実質辞めて、地上職になりました。それでも4日働いて2日休みというパターンで、それが仕事を辞めない限り続きます。
 こちらの仕事も、国会の時期や、予算の時期には夜が遅くなりますので、非常に不規則な生活ですから、すれ違いも多いし、家事・育児をどうにか分担してやらないと生活していけない、というのが実態です。
井口
 今日参加された中で宇川さんが一番年上みたいですね。
東 
 1歳9ヶ月の娘がいます。妻は学生のときに知り合って、社会人になって結婚しました。別々の職場で働いていたんですけど、子どもが生まれるときに妻は会社を辞めて、今は専業主婦として、基本的には育児は妻のほうが主体的にやっております。
 僕は会社が三鷹、住まいは小金井で通勤が近くて、会社もスケジュールが合えば極力家族の都合に合わせてくれるという会社なんで、子どもが病気で午前中に病院に連れて行くとか、そういうことはできる環境です。僕も出来る限りの育児のサポートはやっているという状態です。
上田
 29歳です。子どもはいません。結婚してちょうど1年になります。私は今、学生なんですよ。妻とは前働いていた所で知り合って結婚しました。
 妻が今パン屋で働いていまして、その収入と私の貯金で暮らしています。学校では診療放射線技師になるための勉強をしていて、3年間通います。今ちょうど1年で、あと2年間学校に行くことになります。
 将来的には、私が働き始めてから子どもを作ろうか、ということを考えています。
井口
 今回アンケートに答えていただいた中で、いくつかポイントになる所を見ているところなんですが、家事と育児について、どのくらいやっているか、というのを点数にして出してみました。それから行くとですね、実は、今日来て頂いた方って、みなさん、ものすごく(分布から)外れている方ばっかりなんですね。(笑)
 全部奥さんがやっているのを0点、全部夫がやっているのを10点、半々やっているのが5点として、家事と育児のそれぞれについて点数化してみた中で、男性の点数は大半が1点未満。
 何をもって半々か、というのはかなり定義が難しい、ぶれがあると思うんですけど、かなり「えいやっ!」という感じで点数を出しました。すると、大概の人は1点にまで行かなくて、1点いったら、「あ、やってる方だよね」っていう結果なんですよ。ところが今日の方々はほとんど、5点前後という数字が多くて、3点から6点くらいのところに皆来ているんですよ。
 それで、私はどうなんだろうね、「やってみたら?」ということでやってみたら、実は私が一番点数が低くて、家事点が1点いくつとか、2点までいかなくて、育児点が5点いくつとか、そういう感じです。

家事をする理由

井口
 ですからちょっと、平均的な男性の話からはずれるかも知れないんですけど、とりあえず皆さんに、今日はみなさんが感じておられること、思っておられることを話していただけたらと思っています。今日の方は比較的家事をやっておられる方ばっかりなんですけど、家事はどうしてやっているんでしょうね? というのを何か、お話していただけますか。
 ときどきは、男性の中には、「好きだからやってる」という方がおられるんですね。家事のこまごましたことをやるのが好きだとか、育児だったら子どもが好きだとか。そういうケースもありますけど、一方で好きじゃないけどイヤイヤやってる、そういうケースもあると思いますので、どうして(家事・育児を)やっているのかな、という部分で感想とかご意見とか聞かせていただけますか。
宇川
 まず私は必然的に。やらないと、生きていけない。
井口
 やらないと、とにかく回らない?
宇川
 そうですね。私の給料だけで家族が生活できればいいわけですが、できないから。
 ま、出産前後に半年とか1年とか、休みはありますが、それを過ぎれば必然的に働いて頂くと、そういうことなんで、そうしたら育児の場合、生まれてから半年なり1年なり経過したら、当然分担しなければできない。
 妻の場合が、先ほどもお話したように4日働いて2日休む、という勤務で、それがさらに早出、遅出とありまして、早出の場合は3時20分くらいに起きて4時前に出かけていく。遅出だと、勤務終了が残業なしで9時半頃ですから、家に帰るのが11時半から12時ということになれば、当然私が家事をやらなきゃいけない、必然的にそうなる。
井口
 確かに、奥さんいないときに子どもが起きて来たり、子どもが寝る時間に奥さんはまだ職場にいる、という世界ですもんね。
宇川
 そうですね。で、まあ家から職場までの距離が、私の方が近ければ、ちょっと子どもが保育園で熱出して迎えに行かなきゃいけないというときなんか、必然的に行く、という事がありますね。
箕輪
 やりだすとはまる、ってケースもありますね。結婚したあと、わりと早く子どもができたんで、女房がよく冗談で学生のときの友達なんかに「亭主が家事手伝い出したときにほめろ。ほめて定着させろ」って言うんですけど、僕は見事にはまったケースで(笑)。
 見よう見真似で、それまではあんまりやったことのない料理をやって「うまい」ってほめられると、そこそこ嬉しいですからね。そのうち、女房があんまり得意じゃない料理はこっちが主な担当になると、中華料理はこっち、揚げ物もこっちしか作らない、煮物は女房が作るとかになって。
 そのうち子どもがいるとサイクルになって、女房が早帰りで作ると和食系統、僕が早く帰るとハンバーグ作るとか。そのうちに今度は子どもたちがどういう料理を欲しがってるか、というのを考えるようになると、励みにもなり、ケツを引っぱたかれてもいるっていう感じもありますよね。
 それで、保育園のあと学童に入って、「お父ちゃんは忙しい」って言ってもみんな忙しいお父ちゃんお母ちゃんばっかりだからあんまり言い訳になんなくて、そのうち役とか仰せつかって、引き受けるようになると、そういう世界でもやっぱり課題にしなきゃいけない事があり、「あれどうしてだろう」「やっぱりみんなそうなんだ」って。そういうのがあると、少しずつ深みにはまって行く、ということが、全体としてあるような気がします。
 やりだすとけっこう面白い部分ていうのはありますけど、まぁ一番いいのは、お茶飲んでぐうたらしてるのが一番いいですけど。それとまた別の意味で、動機付けはありますね。「やってるぞ」とか、それでちょっとまた誰かが喜んでくれるとか、そういうのはあります。
東 
 ま、僕の場合は、妻が専業主婦なので食事とかは主体的に妻です。子どもがちっちゃいので、卵アレルギーもあって、気をつかって食事は作らないといけないので。
 独身の頃は、平日は妻が作って、休日はたまに気が向いたら僕が作るというのをやってました。なんで手伝うのかって…やっぱり、妻になんか負担をかけると、ストレスで体に異変が起きてくるんですよ。湿疹が出てきたりとか。それでもうストレスがたまってんな、というのが見てわかるんでね。だから、自分も疲れてるけど、向こうも体に鞭打って家事とか育児とかやってるの見ると、手伝わざるを得ない。そういうの見てて手伝ってるっていうことですね。
上田
 まあ私もそうですね。私の場合、妻が働いてるんで必然的に私がやることになるんですけれども。パン屋さんに勤めてまして、朝5時に家を出て、夜は夕方の7時、8時くらいに帰ってきます。私の学校は埼玉まで通ってるんで、2時間かかるんで、朝の7時くらいに家を出て、夜は7時くらいに帰ってくるんですね。
 で、自分でも、こんなに遅いので少しはやってくれるのかな、と思ってたんですけれど、向こうのほうが先に出て、遅く帰って来るんで俺がやらないとかわいそうだなあ、と思って、やってます。
 家事でも好き嫌いがありまして、トイレの掃除とかあんまり好きじゃないんですね(笑)。洗濯もあまり好きじゃないです。で、もっぱら、食事と部屋の掃除とか、ゴミを出したりとか、電気代ガス代振りこんだりとか、布団干したりだとか、そういうのはもっぱら私がやってるんですけれども、トイレの掃除とかそういうのは月に2回くらい、ちょっとお願いしてやってもらうとか、そういう感じですね。
 あと、うちの両親が共働きなんですけども、私が小学校くらいのときは、父親が収入多くて母親は看護婦をしていたけどそんなに多くなくて、ま、それでうまく行ってたんですけれども。父親の仕事がうまくいかなくなってから、収入が逆転したんですよ。母親の方が多く、父親の方が少なくなったんですね。そのとき、夫婦の力関係も、ドラマチックに変わりまして(笑)
 それを見てて、あら、収入の差でこんなに関係変わるのはちょっとイヤだな、と思いまして。
 今自分が家事をやるのはですね、気持ちとしては養ってもらってるんだから、というのもあるんですけれども、それよりも相手の事を思いやって、やれる方がやった方がいいんじゃないかな、と思ってやるようにしてます。

親世代の暮らしと自分の子ども時代

井口
 今上田さんからちょっと、ご両親のお話が出ましたけれども、皆さん、育ったときはご両親はどういう状態だったんでしょうか。上田さんのところは共働きというお話で、ですからそれなりにいろいろあったと思うんですが。
 うちなんかは当時の典型的な家族というやつで、父親が転勤族で、母親が専業主婦ってパターンだったんですよね。ですから家のことは母親が全部やってたし、父親は…でも晩飯にはずっといたから、比較的早く家に帰って来てたんだな。でも家のことっていうと、それこそ、電気が切れたとか、そういう話になると父親がやってましたけど、ふだんは母が全部やってましたから。そのへん、大きくなってくるときは、皆さん、どんな感じでしたか。
宇川
 うちは、出身は千葉の農家なもんですから二人とも畑に出たり田んぼに出たりしてまして、父親はたぶん家のことは何もしてなかったでしょう。ただ、金に関することは全部握ってました。ほんの小遣い程度を母にくれた。
 ですからうちは家事というのは、おばあちゃんですね。私が小学校3年くらいになってからは、私も家事をやりました。たいしたものは作れませんけど、夕飯を作っていた記憶があります。
 余談ですけれども、父は戦争に行ったことがありまして、戦争の話はしませんけれども、料理長みたいなそういう仕事をやってたようです。たまにしか作りませんでしたが、料理は上手でした。
箕輪
 うちは典型的なサラリーマン家庭で、女房の実家もそうです。女房の父親が銀行で、母親は専業主婦。
 うちの父は役人だったもんで、予算の時期とかになると、4〜5日、下手をすると1週間も自宅に帰ってこない、そうでない時期も平日はけっこう遅い。父親の顔を見るのは日曜しかないんですが、9割方の日曜日は寝てる、という形でした。
 家の中では、怒りんぼで、亭主関白風でしたけど、実権としてはほぼお袋。(「うちと同じだ」(笑))典型的なそのいわゆる、昭和の家族のイメージですね。
 女房の実家もちょうど同じ。で、父は会社の話を家ですることもなく、「俺は外へ出てこんだけいろいろやってるんだ」みたいな感じで、夫婦喧嘩やってるのは見たことありますけれどね。会社の話は家では、ほぼしない。
 逆に私も女房も、それを反面教師として、何で夫婦としてせっかく好きで一緒になったのに、家庭でああなってしまうのかな、と思ったことはあるみたいですね。
東 
 僕のところはですね、父親が家庭教師というか塾をやってまして、母もそれを手伝ってたんですけれども。父親が体をこわして全然仕事ができなくなって、母親が働くようになりました。
 父親はもう亡くなって、母親は健在です。父親は典型的な亭主関白でしたね。すごいおっかないっていうかね。僕はまあ父親、母親っていうよりも、兄弟が4人いまして、その中で一番下で、母親がいないと何でも「おまえが作れ」って言われて、やらされました。「カップラーメン作れ」とかね、何かあるとやらされてました。 
 一番上は年が離れてまして、もう家から独立してたんですが、2番目の次男がいまして、次男が何もやらなくて、大体何かいろいろ、自分がやらされてました。だから家事とか抵抗がないとか、そういうのはありましたね。あとは母親の料理とか、けっこう興味があったんで、やりました。
上田
 私も末っ子なんですよ。私の場合は、やらされたって言うよりも、兄と姉がいるんですが、母親がいないときは二人が何か作ってるのに、一緒についてまわって遊んでたという感じでした。 
 兄からすれば、「やらせてた」のかも知れないですね。一応掃除とか、一通りやってましたね。雨戸を開けたり閉めたりとか。
 妻が2つ年上で、よく言うんですけれども、君は末っ子気質があるんだ、と。私は二人きょうだいの姉だから、姉気質があるんだと。だから二人はうまく行くのよ、と(笑)。
東 
 うちと一緒ですね。(笑)うちもそうですね。向こうが女二人きょうだいの姉なんです。
上田
 で、何かこう、「誉めてあげると、やっぱ末っ子は良くやるのよ」って。さきほどおっしゃったように、最初に何かやったときに、誉めてあげると、何か癖になって良くやるようになるのよ、って言われますね。
東 
 僕は腰が軽いって言われますね。上からどんどんどんどん使われるんで。言われたら、すぐに行動取るんですよ。「子どものおしめ替えてよ」と言われたら、すぐやるとか、けっこう腰が軽いって言われます。

周囲の人々の暮らし方

井口
 今日来ている方はいろいろやられている方ですけど、周囲をみたらどのようですか? 会社の同僚でもいいですし、いまの生活状況をよく知ってる友人、近所の人でもいいですけれど。周囲をみたとき、周囲とは明らかに違うと思いますか? または、周囲の人と話が合わないなど、そういうことがありますか?
東 
 僕の周囲は両極端ですね。やる人はとことんやる、やらない人はとことんやらない、というように二極化してますね。家事もそうですし、育児にたいしても。やる人は子どもにたいして「愛しちゃってる!」ぐらいでいますけれど、やらない人はほとんど家にも寄りつかないくらい。僕の周囲はそうですね。
井口
 両極端のそのどちらも周囲にいますか? 割合としたらどれくらい?
東 
 うーん。ただ、やる人の周囲にはやる人が集まるという傾向があると思います。
 僕の学生時代の友達は僕と同じ価値観をもっている感じがあって、子どもにたいしても同じようになります。会社の人や妻の友達の話ですが、違う価値観の人と一緒になる場合は男性は家事や育児を全然やらない、と聞いたことがあります。
箕輪
 僕の周囲では、若い人のほうが家事をやるという価値観を持っているように思います。職場で僕より上になると極端に少ないです。しかし、若い人と話すと、子どもがいなくてもこのままやっていくだろうと思える人が多いです。
東 
 昔は家事育児は女性が分担するという価値観がありましたが、いまはそういう価値観はないですね。
 基本的に僕が子どもにご飯をあげています。子どもは、僕と妻とがいても僕のほうからしか食べないんですよ。というのは、妻は子どもの好き嫌いや食べる順番を無視して「これ食べろ」とやるんですね。僕は子どもの気持ちを汲み取って子どもに「これ食べたい?」といってあげているので、子どもも僕の方に来るようになります。
 そのように僕が外で子どもにご飯をあげているのを見ると、年配の方は「いまの男の人はそういうことやるんだよね」みたいによくおっしゃいます。
上田
 僕の周囲では、家事は妻に任せて自分が何もやらないという人はいないですね。なんらかのかたちでやってます。話に聞く限りでは、仕事が忙しい人でも、休みの日には子どもの世話をしたり食事を作ったりするということをよく聞きます。
井口
 年齢的には東さんと上田さんがほぼ一緒ですよね。私が今年43になり、箕輪さんが41で、ここも一緒になります。もう少し上だと宇川さんになるのですが、宇川さんの場合、周囲の様子はどのようですか?
宇川
 職場では半々ぐらいではないですか。どこまでかという程度にもよるのですけど。平日には帰りも遅くて何もできる筈はないですが。職場には同世代で独身が多いのですが、結婚している同期は共稼ぎの場合が多いのでやらざるをえないと思うのですよ。
井口
 私のいた会社では、私は異端だったですね。
 女性は結婚退職すべきというところなので、勤めている男性の妻は当然専業主婦だという前提がありました。私の4、5年上の先輩の場合、相手の女性が仕事を続けたいと言ったら、数人の上司に囲まれて小一時間「何が不満なのか」と彼に詰め寄って、大騒ぎになったということがありました。
 私たちのころはそれ程ではなくなりました。「結婚します。家内は仕事を続けます」といったら「わが社の伝統とは違うけれど時代が時代なのでしかたがない」と言うようにはなった。
 会社には、家の仕事を男がすることはありえないというか「それは全部奥さんのやる仕事だろう」という雰囲気がありました。
箕輪
 私にもショックなことがありました。学生の時、友達の下宿先に遊びに行ったら留守だったので待っていると、その隣にあったある会社の寮で、公衆電話で男性が話していたのをたまたま聞いてしまいました。
 その人は私より少し年上に見えたのですが、実家に電話しているようでした。「とにかく忙しい。これでは自分で食事、洗濯ができない。だから誰でもいいから嫁をみつけてくれ。もう自分だけではやっていけない」と切々と語っていました。
 私はそれを聞ききながら「なんでこの人結婚したいのだろう」と思いました。同世代の人間で、実家にそういう電話をする人がいるのだとびっくりしました。生まれ育っての価値観が違うのだと思いました。
井口
 家政婦さんですよね。
箕輪
 ただで使える家政婦さんが欲しいという、その人の日常ってなんだろうと思ってしまいましたね。
井口
 いくら私達の世代でもそんなに明確に現れる例は珍しいですよね。男性の家事への抵抗感は下の世代になるほど少なくなってるでしょう。
東 
 女性が主張してきたということがあるのでしょう。女性もやりたいことが増えてきて、結婚して子どもを産んで、家事育児に専念してという時代じゃなくなったのではないですか。家事育児を早めに切り上げて自分の時間を持つ。子どもと一緒にいるのには違いないけれど、それでも楽しみたい。そういう時代に変わってきたと思います。

職場のプレッシャー

井口
 そのへん実際にやろうとして、保育園に預けても迎えに行かなければならないし、子どもが病気になったら病院に連れて行かなければならない。奥さんなり旦那さんが仕事を早退して行くことがありますよね。仕事を途中で抜けたら周りが困る。そういうときに職場の人からのプレッシャーを感じることはありますか?
東 
 実際にはそう多く抜けるわけではありませんが、極端な話、半日や一日休んでも会社がまわらなくなることはないですよね? それに前日や早朝に連絡しておけば、周りがフォローしてくれる会社ですし、大丈夫ですね。
宇川
 プレッシャーは感じましたね。一番最初の子どものときは、丁度全然違う会社に移ったばかりのときで、極端に忙しかったのですよ。そのときに頼りになったのは同僚ですね。必ずしも理解ある人ばかりではなかったですが。
 一番良かったことは、隣の席が女性だったことですね。彼女は経験があるので助けてくれました。おばあちゃんとか遠くの家族を活用できたことも良かったです。しかし、なによりプレッシャーに耐えるということですね。「職場を変わってやる」と思いながら。
箕輪
 プレッシャーに耐えるには面の皮が厚くなければいけない。重要な会議をやっていて、あと5分で出ないと保育所で始末書を書かなければならないとなると、「すいません。これはあとにしてもらえますか」と開き直って出るしかない。それと夫婦それぞれに仕事がたまったら、交代で片付ける。先に帰れる方が家事をやって、スイッチして夜に会社に戻るとかする。

世間のプレッシャー

井口
 調査すると家事をしない男性のほうが多い。若い人になる程増えているといっても、私達の年代ではしていない人のほうがはるかに多い。「やらない」という人もいれば「やれない」という人もいる。プレッシャーや忙しさなどが理由です。周囲で家事をしていない人をみて、どうして彼らはしていないのだと思いますか? 先ほどの話のように、そういう価値観があるから「やらない」のでしょうか?
宇川
 地域性もあるかもしれません。九州の男性は奥さんに仕事をさせない。家のことをやってもらう。それしかないという考えの人は確かにいます。
東 
 それは九州だけではない。私がおばの葬儀に兵庫の田舎に行ったときの話です。手伝おうと少し早めに行って箒で掃除していたのですが、それだけで「男のやる仕事ではない」と言われました。男は力仕事はするけれど、掃除などは仕事ではないとされてる。本当にカルチャーショックを受けました。僕は東京生まれの東京育ちなので、そういう文化に触れたことはなかった。
井口
 そのようなところでは大変ですよね。お嫁さんは「旦那に家事させている」と怒られ、旦那さんは「お嫁さんを働きに出している」と怒られる。
箕輪
 共稼ぎなどしたら大変なことになりますよ。
東 
 女性は家に入るというのが大前提ですから。
井口
 東京は全体的にそのような感じはない。ただ、私は学生のときに東京に来て、そのまま居住しました。私達の世代には多いですよね? だとしたら、田舎の親はそういう人だったということもあるのではないですか?
箕輪
 石川県金沢出身の同年代の友人がいます。その彼が結婚する前、自分達が共稼ぎになることを親に説得するのに2年もかかったそうです。「なかなか結婚できない」という愚痴をよく聞かされました。
井口
 7年前にも男性同士の座談会がありました。そのなかで出ていた話題が、家事育児は家の内だけでやるものではないというものでした。布団を干す、スーパーに買い物に行くなどで家の外にも出る。ある程度やってる人でも家の外だと抵抗がある。世間体が気になるという感覚です。あの座談会は福岡でおこなわれたのでそれは余計に強かったのかもしれません。私の親も九州なので、そのような世間体を教えこまされた憶えが私にもあります。世間体についてどのように思いますか? 東京だと感じないものでしょうか?
箕輪
 マンションだとそういうことはないでしょう。一戸建てに住んでいて、布団を干すときに近所の人と会話をする『サザエさん』で描かれるような場所なら別です。そういう家ならば「男が家事をするなんて恥ずかしい」と言うだろうと感覚では分かりますが、周囲にはありません。
宇川
 前後左右の家をみても、妻や娘の下着を干すようなことはしていない。最近していることは犬の散歩ぐらい。それも私からみると奥さんにやらされている様子です。男の仕事かどうかはわかりませんが、彼らが掃き掃除をしたり庭木を刈るのはみます。
箕輪
 男性がすると恥ずかしい家事とそうではない家事が『サザエさん』的世界にはあるのでしょう。きっと下着を干すことは恥ずかしいのですよ。
宇川
 数ヶ月に一度ある町内会の掃除にも男性は来ませんね。
井口
 週末ですよね?
宇川
 そうです。それでも男性はみたことがない。奥さんが他に用事があるなどしていないかぎり出てこないのではないでしょうか。
井口
 奥様方が集まっているから男が一人で出て行くことが嫌なのでしょうか?
宇川
 それもあるでしょうね。それとPTAですね。私もカミさんに「行かないで」と言われる。「役員をさせられるから」というのです。
井口
 男性が珍しいので「お願いします」ということになるのですね。
宇川
 本当に好きな人は行くようですが、普通は行かないようですね。
箕輪
 PTAに関しては、学校の週休2日に合わせて平日に会議を開かざるをえなくなり、男性がいなくなったという話を聞きます。サラリーマンのなり手がほとんどいなくなり、どこのPTAも紛糾してるようです。そこに男が顔を出したら非常に注目されるでしょうね。だからPTAのTを外してPAにしないか、という話もあちこちででているようです。学校側の都合とは別に、男性も集まりやすい土日に開こうということです。
東 
 私には姉がいたので女性の下着を干すことには抵抗ないですね。だから、妻のものを干したり畳んだりすることにも抵抗ないです。逆に、妻から畳み方の教授を受けるくらい。恥ずかしいという思いはないですね。
 買い物に行っても、大量に買うほうなので荷物を持ちます。友達の場合、奥さんが2人目の子どもを妊娠しているとき、まだ離乳食が必要なくらい幼かった上の子どもと買い物にいったそうです。銀座で買い物をしていたようですが、彼がベビーカーを押していると「母親はどこにいる」と周囲から白眼視されたということでした。ただ、彼は子どもが好きなので周囲は気にせずに、子どもと一緒にいられることが大事と言っていました。僕もそれほど気にしないですね。
箕輪
 そのように男性が幼い子どもを外に連れていったときは、オムツを替えたり離乳食をあげたりする場所がないですよね。男性用トイレにはない。
井口
 女性用トイレにはそのための場所がわりとついていますけれど。
東 
 デパートなどに行くと設置してあるベビールームを利用します。僕もたまに2人だけで立川などに行きますが、困るのは自分がトイレに行くときです。子どもを置いておく場所がない。ただ、最近では男性も使える場所が出てきました。
井口
 その点、女性より遅れていますよね。ときどき、ベビールームと授乳室がくっついている場合があって入れない。カーテンをつけさえすれば済むことなのに。
箕輪
 よその奥さんが授乳しているところには入るわけにはいかないですよね。
井口
 ベットが見えたので入りかけたら、まずいと感じて引き返したこともあります。
上田
 私も家事をすることで恥ずかしいと感じた事はないです。子どもがいないのであまり地域社会と接していないという事もありますが。逆に妻の方が「妻なのにあまりにも家事をしなくて申し訳ない」「家事をしていないと他人に言われることがある」とたまにポロッという事があります。まあそれも、僕を調教しようという作戦の一つかもしれませんが。(笑)
井口
 実際に家事育児をしている側からみれば、やろうと思えばできるものなのですかね。
東 
 それで自分が痛い目にあわされるわけではない。ただ注視されるだけで。
井口
 注視する人は自分とは価値観が違う、と思うだけ。
宇川
 ただ、いまはそうしなければいけない時代だと思います。以前、男女共同参画を推進するある部署にいました。しかし、トップから「仕事の中でそれをやれ」と言われるとそれを拒否する部分もありました。現場部分では「邪魔くさいこと」とされていた。例えば、この会議には女性は何人いなければいけない、など。そういう場所にいたものですから、アンケートがきたときは「なぜ自分に」とは思いながらも気がねなく回答しました。自分は家事育児をするのが当たり前だと思っていて、特に気になりません。
箕輪
 いまはそのような動きもあって、あまりうるさくなくなってきています。男性が女性用下着を干していても変ではない。変に思ったり悪く思ったりしない土壌ができているのではないでしょうか。時代ということもあるのでしょうが、やろうと思ってできる範囲に収まっているかもしれません。

男も家事をすべきか

井口
 今日集まった方々は家事育児をしていますが、夫がそうしていくほうが良いと思いますか? 自分が良いと思うから続けられる面があるのではないですか?
箕輪
 いくつか考えられます。自分が楽して妻がストレス溜まる一方なのが良いことなのか。それよりも自分が手伝って夫婦仲良くしたほうが良いです。また、自分が加わることによって家事時間の総計が短縮され、余暇を増すこともできる。そのなかで妻から感謝されれば自分も嬉しいですよね。あるいは、必要な家事すら滞る場合には手伝わざるをえないともいえます。誰だってゴミ溜には暮らしたくないですよね?
井口
 それらを比べると、とりあえず直ぐに動いたほうが良いということですね。
上田
 そうですね。したほうが良いと思います。
井口
 しかし、全体をみれば、家事育児をする男性のほうが少数派ですよね。している男性していない男性が両極端にわかれている現状は、将来どうなっていけば良いのでしょうか? していない男性たちもしていく社会が良いのか、それとも、それぞれがしたいようにしていけば良いのか。
宇川
 年をとったときなどにも困るので、いまから家事をすることが良いと思います。例えば、私たちは年をとるごとに、次にステップするため転勤しますから、そういうときのためにも良いです。もちろん独身の方でもそうです。あるいは、奥さんに先立たれる場合もあるかもしれません。とにかく、どちらが良いかを考える前にそういうこともあると知っておいてください。
東 
 昔はサラリーマンで男は会社に尽くして、女は家事という分担がありました。それが現在では、男も会社だけが全てではなく家庭も大事にする。それに、家計を支えるためにも女性が働くことが必要とされている。そういう時代背景もあり、社会が多様化してきて、女性も仕事をしたり自分の時間を楽しんだりするようになったということでしょう。今後、日本の景気が大回復することもないだろうし、夫は収入も少なくなるだろうし、妻の収入に頼る以上、家事もそれなりにするようになっていくのではないでしょうか。
上田
 確かに収入は関係するでしょうね。収入が多ければ、奥さんにも家事させず、家政婦さんを雇うこともできますが、それは無理ですよね。しかし、そう考えるのではなくて、家事を夫婦共通の話題や趣味の一つだと考えれば、お互いにできたほうが良いではないですか? 「この洗剤、この間より落ちたよね」と共通の話題ができるので、家事はできたら良いかな、と思います。
井口
 自分ではしたほうが良いと思っています。ただ、実際には、していない人のほうが多数ですよね。いま話題になったように経済的理由も大きいのでしょう。旦那さんの収入が落ちたので、奥さんとの共稼ぎになるということもあるでしょう。また、極端な話、女性と男性の収入が逆転すれば立場も変わるでしょう。そのように考えて、現在みていると男性のほうが賃金高いですよね。昔からすれば仕事は変わったのですが、同じことをしていても女性と男性では収入に格差がある。それが解決しない限り「男性は仕事。女性は家事」が変わるのも難しいでしょう。
箕輪
 インフラを改善して欲しいです。賃金格差がないとか結婚する女性へ退社を促すような無言のプレッシャーだとか。それがなくなれば「家事はしたい人がするものだ」となるでしょう。例えば、家庭の実権を握りたい人同士では反り合わないから、夫婦のどちらかが「あなたにお任せします」という人達が残るようになる。そうすると、周囲から夫婦の関係が明確にみえるようになり、一組ずつの違いを確認していける。そうなれば一番良いのですけど、現在ではインフラ自体にバイアスがかかっている。
井口
 結局はそうなのでしょうね。
箕輪
 アメリカ型の「選択の自由」は個人的には嫌いなのですが、目下の課題を解決するためには良いのでしょう。
東 
 アンケートのやり方にもよるでしょうが、昔より男は家事をしてきてると思いますよ。僕たちは団塊ジュニア世代なのですが、同世代のSMAPがテレビ番組内で料理をしているように、家事への抵抗感がありません。逆に、男性シェフが多いように、男性のほうが器用でつきつめるので、料理には向いていると思います。仕事などで忙しいからやっていないのですが、それでも家で料理している男性はいますし、料理を作ると奥さんより上手だったという話も聞きます。
井口
 時代の変化と世代の変化とによって、今後はそのように動く可能性は高いといってもよさそうですね。今回の調査は7年前の調査が古くなり、現在はかなり変化しているのではないかという疑問が発端でした。当時はここにいらっしゃったような30代の方々も、まだ学卒直後で調査対象外でした。その世代が結婚や子育ての時期に入ってきている。これは7年前とはかなり違った結果になりそうですね。
箕輪
 「友達夫婦」という言葉が流行しました。その友達夫婦にとっては「友達」として時間を過ごす、お互いにざっくばらんに話ができて、実生活をベースにしてお互いの経験を共有したいということがあります。そういう友達夫婦が増えれば、もちろん得手不得手はあるにせよ、家事をシェアする部分は増えるでしょうね。昔の結婚観では、遊ぶならば家庭の外でというのがありました。例えば、釣りをする、酒を飲むなどしても、家庭には持ち込まない。それが、友達夫婦では、遊ぶにも何をするのも家族でという結婚観になりました。その延長で「それでは家事もしよう」となってくると思います。
東 
 僕も学生時代からの付き合いで結婚したので、遊びに行くにも妻の友達の夫婦と一緒に行ったり、逆に僕の友達の家族と行ったりはします。そういうつながりのなかでは育児に熱心な男性が多いです。

女性へひとこと

井口
 最後の質問になりますが、女性に対する要望を聞かせていただけますか? 家事育児に関連して、女性全般にたいして「こいうふうにしてくれればいいのに、下手だな」とか「こういうことにカチンとくる」ということがありますか?

    (…なかなか発言がない)
箕輪
 総論としては何も思いつかないですね。個別には「もっと長い目で見てくれよ、俺だって少しずつ向上してるのに」というのはあります。
宇川
 これは自分の家のことなのですが、2人の娘にはもっと家事をしておいたほうが良いと言いたい。
井口
 十分成長したのだからできるはずだ、ということですか?
宇川
 できるはずです。ただ、昔はガスなどが危険でしたので、子どもだけで料理をするときには使わせなかったのですね。それが悪い影響だったのかもしれません。普通だと親に付いて料理に慣れるものかもしれませんが、それもさせてあげられなかった。ただ、できないわけではないのだから早く家事はしてほしい。
箕輪
 その点、また別にテーマを絞って話したいことがあります。人間は生活をするために手先を使う文化を発達させてきました。包丁で食材を切るなどですね。現在ではその文化が、コンビニエンスストアなどのために、親から子に伝わっていない。子どもが料理する経験がなかったり、楽をしすぎることで、文化が途切れてしまうかもしれないですよ。
井口
 「野菜炒めセット」のように切れた野菜が売られていると、「何それ」という感じしますね。
東 
 確かに楽するものが売れてますよね。これもただ面倒くさいからという理由からでしょう。
箕輪
 文化の継承という面で、家族全員で家事をするということには賛成です。識者が警鐘を鳴らしているのを読むと、本当にそうなったら大変だと思いますね。
井口
 話は尽きないのですが、どうやらお時間の方が来てしまったようです。今日は皆さんお集まりいただいてどうもありがとうございました。


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